私は、あるソフトウェア会社で、飲食業向けのコスト管理用コンピュータシステムの提案営業をしていました。30歳くらいのころです。

前職は飲食業チェーンの本部の電算担当(今で言う社内SE的な仕事)をしていましたので、飲食業におけるソフトウェアの活用などは自分なりに自信がありましたから、思い切って転職しました。

待遇も幾分良くなることも魅力でした。しかし、入社2年目になってもなかなか営業成績がなかなか上がらず、悩んでいました。

営業方法としては、展示会や電話帳から集めた顧客リストから飲食業の会社に電話をかけ、ソフトの紹介をする仕事です。飲食業の経営の合理化に役立つソフトで、業界でも優位性を持っていました。

電話営業で興味を示してくれたらアポを取り、後日訪問して提案営業するというスタイルでしたが、まず、企業に売り込みの電話をすること自体が苦手でした。

ほとんどの場合、電話口で切られるか、逆に「この忙しいときに電話してくるな!」と、お叱りを受けることも多くあります。その当時の会社は、営業は常に新規の案件を開拓していかなくてはならない状況でした。

しかし流石に電話営業を1週間も続けると、気持ちもすっかり落ち込み、営業に消極的になっていました。当然新規の案件も少なくなり、営業成績も目に見えて下がっていきました。

支店内での営業会議でも責められ、ますます萎縮していきました。そんな時、社長が支店を訪問すると言う話を聞きました。当然私の営業成績について責められるのだろうなと思い、一層暗い気持ちになりました。

社長が来る日が近づくにつれ、どんどん気持ちが落ち込み、辞めてしまおうという気持ちになっていきました。そしてついに社長がやってきた日、思い切って社長に直接退職を申し出ようと考えていました。

しかし、社長との個人面談になったとき、意外にも社長は営業成績のことなど一切触れず、ただ一言「格好つけとるんやないか?」。社長は叱るどころか、笑顔を浮かべていました。

その時、一気に気持ちが楽になるとともに、「そうだ」と自分自身で悟りました。私の営業成績が上がらないのは、自分に能力が無いというよりは、電話営業で断れるのが恥ずかしい、辛い、売れなかったら情けないなどと、プライドから来ていることが全て分かりました。

まさに目から鱗が落ちたような社長の一言でした。それからは、テレアポにも提案営業にも硬さが取れ、積極的になれました。そして何よりも自分自身の心が楽になりました。

自分のプライドの高さが、自分自身を苦しめていたのです。その後は、通常の営業だけでなく、他の営業マンが嫌う顧客先や、クレームの発生した顧客先にもどんどん積極的に出かけていく自分がいました。

相手がNGを出しても特に苦になることも無くなり、自然体でいられるようになりました。何だか仕事自体が楽しくなり、生活にもハリが出てくるようになりました。

仕事で悩んでいる人は多いと思います。特に私のような営業マンは営業成績のことで悩み、自信を失い、仕事をやめたいと思い出す気持ちは嫌というほどわかります。

しかし、そういう人の中には、やはり私と同じように失敗を恐れていつの間にかプライドだけが大きくなっている人が多くいるような気がします。

プライドが大きくなればなるほど失敗や恥をかくことが怖くなり、結果として思い切って仕事が出来なくなるのではないかと思います。

私の場合は運良く自分の会社の社長が教えてくれましたが、なかなか周りからアドバイスしづらい部分なのかもしれません。ましてや自分の上司や社長にアドバイスを期待しても当てにはできません。

こんな考え方もあるんだということを思い出して欲しいと思います。