昔から甘い物に目がなかった私は、半分以上趣味を兼ねて和菓子店で働き始めました。それが大きな間違いだったと気が付くのは、二年もの月日が経ってからでした。

バイトやパートさんは売り子をするだけなのですが、正社員は前日までの予約分の梱包で朝は始発電車、夜は計算作業や和菓子を作る調理場の片づけなどで21時を回るのはざら。

おまけに、調理場以外は女性ばかりの職場でいじめや陰口も非常に多く、働き甲斐のある職場だとはお世辞にも言える環境ではありませんでした。

しかし、当時就職氷河期真っ只中だったことと、それだけ長時間働いても全てサービス残業だったためろくに貯金もなかった私はずるずるとその和菓子店で働き続けていました。

人間って不思議なもので長く働くと、どれだけ劣悪な環境でもそれが都に思えてくるのです。

就職したての半年くらいの間に、辛いだとか苦しいだとか、そういう感情は消え失せていました。お金がないのは当たり前、朝が早いのも帰りが遅いのも、自分が休憩時間に起きたレジ間違いで長時間社長に罵倒されるのも当たり前。

サービス残業が異常に長いことや人間関係の悪さなど、ネガティブな要素は全て忘れたり気が付いていないふりをしていたんです。気が付けば洗脳されていると言っても過言ではない状態になっていました。

だけど、そんな無理が長く続くわけもありません。

平均睡眠時間は3時間を切っていましたし、休憩時間がカットされてお昼は売り物にならなくなったお饅頭をこっそりつまみ食いするだけで終わり。そんな生活を二年続けていたある日、私はストレスと栄養失調で倒れたのです。

幸い、倒れたのは会社から帰宅途中の道でした。周りにいたどなたかが呼んでくださった救急車に乗せられて、私は気が付くと病院にいました。

「現代の日本で栄養失調って、何か無理なダイエットをしていませんか?」。運ばれたお医者さんは、私が気が付くとまずそう仰いました。

ダイエットをしていない旨を伝えると、普段の食生活について問われました。そこで初めて気が付いたのです。まともに食事を作る時間がなく、かといって外食するほどのお給料も貰えていなかった私の食生活がどれだけ貧しいものだったかを。

正直に会社のことも、食生活のことも、ストレスと過労でまともな睡眠時間もないこと。

お医者さんは親身に話を聞いてくださり、私の会社がまともではないことを事細かに説明してくださりました。親や友達には心配をかけたくない一心で、ずっと一人で苦しんできていた私。

第三者の方に「それは間違っている、そんな場所にいてはいけない」と言われてやっと、目を背けていた自分を思い出したのです。

お医者さんに出してもらった診断書を提出し、会社を辞めることにしました。

診断書を提出した私に社長が言ったのは「たいした仕事もしていないのに、仕事を理由に体壊して辞めますとはいいご身分だな」という、人のことを何とも思っていない言葉でした。

悔しくて涙が止まりませんでしたが、今日一日我慢すれば明日からは自由になれる。そう思うほど、疲れ切っていた私は罵倒されるのをただただ聞いて、何も言い返すことなく会社を後にしました。

会社を辞めようか迷っている、そこのあなた。目を背けていたらいつか私みたいに倒れてしまいます。

そうなってからは全てが遅いです。自分はブラック企業かもしれないけど、下には下のブラック会社があるからと、無理や強がりをしないでください。

強がりをはって大事な体を引き換えにするほど、会社はあなたのことを考えてくれてはいないかもしれません。現在は転職し、私は今技術系の職業をしています。給料が低いのは前職と同じですが、何よりもやりがいがあるんです。

何か一つでもいい、うちの会社のここが素敵だと胸を張って言える職場。そんな素敵な職場に転職するのは、今あなたが我慢している生活よりも簡単なことかもしれません。