当時、イタリア料理の飲食店に勤務していました。内装もオシャレで料理も美味しく、こんな店で働きたいと自分で希望して入った会社でした。

始めの面接で、店長(オーナーシェフ)が『やる気のある奴はどんどん給料をあげていく』『お客様との繋がりが何よりも大事だ』と言っていた事に希望を持ち入社しました。

社員は私だけで、オーナーシェフが料理を作り、ホールは私一人でこなしていました。小さい店でしたが、満席の日はとても一人では手が回らない程込み合うお店でした。

それまでの飲食店勤務の経験もあったので、一人でホールをまわす、という仕事にやりがいを感じていました。最初の1年は仕事を覚える事、お客様に顔を覚えてもらうことに一生懸命でした。

2年目に入る頃、オーナーシェフが店の営業時間の延長を相談してきました。それまでは17時~22時のディナータイムのみの営業だったのですが、今後は17時~深夜4時までの営業にしたい、との事でした。

体力的にはキツいですが、仕事にやりがいを感じていた事もあり、お店の売り上げに繋がるなら、と賛成しました。もちろん給料もその分増やすと言われたので特に不満はありませんでした。

実際に深夜営業が始まってみると、お店はガラガラでほとんどお客様は来ませんでした。ディナータイムが終わると開店休業状態。

深夜営業がお客様に知れ渡るまでの辛抱かと思っていましたが、そんな日が1ヶ月続き、深夜営業をする意味がなくなって来た様に感じられました。

そして給料日、渡された給料明細は今までと同じ金額でした。拘束時間が2倍に増えたのにも関わらず、全く変わらない給料だったので何かの間違いかと思いオーナーに確認したところ『売り上げがないから給料は変わらない』と言われました。

今までの通常営業の中で、自分についてくれるお客様も出来たし、一人でホールをまわしていると言う自負もあったので『やる気のある奴はどんどん給料をあげていく』といった言葉は嘘だったのかと思う様になりました。

その時からオーナーに対する不信感が芽生えてしまい、何を言われても信用出来ない様になってしまいました。

オーナーと私しかいないお店ですから、信頼関係が無い以上は毎日が苦痛でしかありませんでした。いつしか、辞めたい辞めたいと思う様になっていました。

辞めたいと思っていても、まだ入社して2年目ですし、こんなに早く辞めてしまうのには抵抗がありました。このお店で掴んだ新しいお客さんもいましたし、オーナーの友人の中には本当に良くしてくれる姉の様な存在の人もいました。

そういった人達との繋がりを切りたくないという思いと、これ以上オーナーに失望したくないという気持ちが半々で、自分の中でも踏ん切りが付かずに迷っていました。

ましてやお店はオーナーと私の2人きり。私が辞めたら新しいスタッフが入るまでお店はどうなるんだろうかと考えてしまい結論が出せずにいました。

ある時、オーナーの友人がやっているバーに飲みに行った時のこと。オーナーの友人であるマスターがおもむろに話しかけてきました。

『最近、仕事つまらないの?』と急に言われ思わず『はい』と答えてしまいました。そこからはお酒の力もあって、悩んでいた事をマスターに打ち明けました。

するとマスターは『辞めなさい』と。『オーナーは不満を言わない君に甘えているだけだ』『従業員に不信感を持たせる様なオーナーは雇い主として失格だ』と言ってくれました。更に『君が本当に良い仕事をしていればお客さんはお店を変わってもついてきてくれるだろう』と。

この一言が背中を押してくれ、オーナーに退職を言い出す事が出来ました。すぐには納得してくれなかったものの、給料の話になると渋々承諾といった感じになりました。

退職の日にちを決め、その後はスムーズに辞める事ができました。全員ではないですが、そのときのお客様も新しいお店に来てくれたりして、それが自分の更なる自信にも繋がりました。

自分の頑張りだけではどうにもならない事もたくさんあります。長く続けたからと言って、それが必ずしも良い結果にはならないと感じました。

自分の中に溜め込むのではなく、誰かに相談してみる事も大切だと思います。世の中には厳しくとも自分の為になる事を言ってくれる方もたくさんいます。

一時的な感情で、辛い事から逃げたくて辞めたいだけなのか、それとも辞めた方が自分の将来にとって有益なのか、頭に血が登っている状態では判断を誤る事もあるでしょう。冷静に考えてみる事が本当に大切です。